【視察報告】呉市の事業承継オープンネーム型マッチング — 「まちの奥行き」を守る挑戦
小林貴虎 活動報告ブログ
三重県議会議員・市議会議員 / 視察・政策レポート

【呉市視察】「まちの奥行き」を守る——
オープンネーム型事業承継マッチングの挑戦

JMU呉造船所 呉市役所前の整備された通り れんがどおり商店街

左:JMU呉造船所(海上自衛隊艦船の修繕も担う)/右上:整備が行き届いた市役所前の並木道/右下:呉の中心商店街「れんがどおり」

造船と海軍で栄えた広島県呉市(人口約19万人)で、ユニークな事業承継の取組が動き始めている。スタートアップ企業「株式会社ライトライト」が運営するオープンネーム型マッチングプラットフォーム「relay(リレイ)」を活用し、後継者不在に悩む地域の小規模事業者と、Uターン希望者をつなぐ試みだ。令和5年スタートから令和7年に初の成功事例が生まれるまでの経緯と、「まちの奥行き」という独自の哲学を現地で聞いた。

はじめに——呉市とはどんなまちか

まず呉市の背景を整理しておきたい。戦時中は海軍工廠として栄え(1943年時点で海軍関係者40万人)、戦艦大和を建造したことで知られる。現在も大和ミュージアムには年間100万人が訪れる。平成の大合併で8町を吸収して人口25万人規模になったが、その後離島部の人口流出などが続き現在は19万人強。財政力指数は0.51と津市より国依存度が高い。

戦艦大和の塔 川沿いの風景(かき舟)

左:歴史の見える丘に立つ戦艦大和の塔(昭和44年建立)/右:川沿いには「かき舟」が係留。牡蠣養殖は生産量日本一

産業面では重工業・造船が今も中核。JMUは国の後押しを受け造船を継続しているが人手不足が深刻。日本製鉄の工場閉鎖跡地は防衛拠点として活用される予定で、市議会もこれを支持している。島嶼部ではみかんや牡蠣の養殖が盛んだが、昨年は牡蠣の大量斃死(へいし)が問題となった。

🏙️ 呉市の街並みの印象

市役所から呉駅にかけての広いエリアで電柱の地中化が進み、デザイン性の高い街路灯が整備されている。川沿いは道幅が広く遊歩道と公園が整備され、街路樹も丁寧に剪定されている。ただし全体的に人通りは少なく、視察当日(火曜)は商店街も定休日の店が多かった。マンションが目立つことからも、広島市の通勤圏としてのベッドタウン的な性格がうかがえる。

至る所で建設工事が行われており、人口規模の割に河川・公園・街路に多くの予算が投入されている印象。軍港として栄えた長い歴史を踏まえた、まちをつくってきた人たちの意思の継承と感じた。

なぜ事業承継が課題なのか——「まちの奥行き」という概念

呉市が事業承継に力を入れる背景には、商店街の衰退と地域経済の空洞化への強い危機感がある。説明を担当した呉市産業部商工振興課の担当者が繰り返し強調していたのが、「まちの幅と奥行き」という考え方だ。

「幅」は多様な店——これからつくれる。だが「奥行き」は老舗——意識して守らないとなくなる。日本製鉄もなくなった。地域の小さな店がひとつひとつなくなることで、市民の意識に影響を及ぼす。「呉はダメなんだ、萎んでいくんだ」という空気が生まれてしまう。

商店街再生が必要な3つの理由

理由 内容
①固定資産税の稼ぎ頭 市役所近くの商店街約40haは市域の0.1%に過ぎないが、固定資産税収入への貢献は0.1%をはるかに超える。商店街の再生は「投資」である。
②新規創業の場 素人が創業する際、百貨店やモールへの出店は難しく、郊外出店には駐車場整備だけで1,000〜2,000万円かかる。空き商店街を活用すれば低コストでスタートできる。最盛期の1/3でも1日2万人・年間30万人が往来する場には価値がある。
③地域経済の循環 チェーン店の売上は地元に2割しか残らないが、地元店は8割が地域内に還流する。「面識経済(顔の見える商売)」によって地域循環経済が成り立つ。

オープンネーム型事業承継とは何か

従来の事業承継は「クローズドネーム型」が基本だ。情報を秘匿して進めるため、従業員が不安になったり、承継が失敗した際に悪いイメージがつくリスクがある。一方でオープンネーム型は店主の顔・想いをウェブに公開し、広く後継者を募る方式。家族経営の飲食店や創業年数の長い老舗など、「ブランド」として語れる事業に向いている。

呉市はどちらの方式も選べるようにしており、事業者が自ら選択できる体制を整えた。オープンネーム型を担うのが、広島サンドボックス事業(令和5年)でマッチングした宮崎県発のスタートアップ「株式会社ライトライト」が運営する「relay(リレイ)」だ。

📱 relay(リレイ)とは

経済産業省(中小企業庁)M&A支援機関登録。2020年2月サービス開始のオープンネーム型事業承継マッチングプラットフォーム。国内随一の実績を持ち、公開案件数約500件・成約数約100件・会員登録約15,000人・閲覧数35万PV。

手数料は譲渡額の8%(例:500万円の案件で40万円)。自治体との連携実績92件・案件数160件・自治体案件成約率33.3%。フルリモート体制で全国各地に社員が在住。ベンチャーキャピタルから支援を受けるスタートアップ企業。

「KURE SUCCESSION Program」の実際

役割分担と予算

主体役割
呉市 商工会議所等既存団体との接続、商店街事業者への説明・掘り起こし協力。初年度:キャンペーン費として約200万円弱。本年度:ページ運営のみ100万円。
relay アンケート調査の実施、ページ立ち上げ・取材・記事作り、マッチング支援。掲載は無料(成約時8%手数料のみ)。
広島県 広島サンドボックスを通じてスタートアップ企業に活動資金100万円を直接交付。市はこの事業にお金を出していない。国から特別交付税措置あり。

応募者の特徴と選考プロセス

問い合わせが相次いでいるのは、地元出身または近辺出身で首都圏在住の30〜40代男性が中心。Uターン意向を持つサラリーマン層だ。書類選考の後、relayによるweb面談を5〜6件実施。じっくり進めることで成功率を高める方針。

掲載案件の発掘——「地域のプレーヤー」が鍵

最大の課題は掲載案件の発掘だ。商工会議所経由のアンケートでは掲載に至った件数はゼロ件だった一方、地域の人脈から直接聞いた生の声が唯一の情報源になっている。金融機関・宅建協会・飲食組合などとの連携が有効で、地元のことをよく知った「まちのプレーヤー」が重要だと強調された。

成功事例——呉楽器店の承継

令和7年
後継者決定
(令和5年開始から2年)
500万円
譲渡額
(呉では多い方)
40万円
relay手数料
(譲渡額の8%)

令和5年から令和7年の間に成功した案件は1件——呉楽器店だ。市内に2店舗しかない楽器店で、70代の社長が経営。吹奏楽部への楽器納品・修繕を担い、地域の祭りに使う竹笛は呉楽器店でしか販売していない。まさに「まちの奥行き」を担う存在だ。

新事業主は広島市内の大手自動車メーカー勤務だった30〜40代。令和7年に後継者が決まり、この4月から新体制で経営が始まっている。「第二創業・事業のリノベーション」として、単なる引き継ぎではなく新たな担い手が事業を生まれ変わらせることを期待している。

⚠️ 令和5年スタートから現在まで成約1件というペースについて:担当者は「成功することが大事、慎重な面談が前提」と説明。relayはベンチャーキャピタルから投資を受けており先行投資段階。事業承継以外の業務も行っている。秋田県の事業承継センターとの連携は良好だが、広島県の引き継ぎ支援センターとは「民間の手数料をとるところに協力するのか」という姿勢から連携が進んでいない点が課題として残る。

今後の展開——広域化と連携中枢都市圏

呉市が旗振り役となり、周辺市(東広島市・江田島市・竹原市・海田町・坂町・熊野町・大崎上島町)との連携を進める広域化計画が動き出している。他市は予算負担なしで乗っかっている形だが、relayの社員が隣の江田島市に在住しているなどの地の利も生きている。

連携中枢都市圏の国庫補助も活用予定。中小企業振興条例を制定し令和2〜3年に会議体で議論した積み重ねが、この事業の土台になっている。なお、「残していきたいまちをSNSにアップするキャンペーン」(ギフト券配布)も実施。後継者募集に直結するわけではないが、候補店舗の当たりをつけるための情報収集として機能している。

経緯タイムライン

令和2〜3年(2020〜2021年)
呉市が中小企業振興条例を制定し、会議体で議論を重ねる。
令和5年(2023年)
広島サンドボックス(広島県事業)に応募。株式会社ライトライトと呉市がマッチングし「KURE SUCCESSION Program」スタート。商店街・飲食組合へのアンケートを開始。
2025年1月時点
relay the local呉市ページを開設。募集中1件・募集終了2件の状態。問い合わせは首都圏在住30〜40代男性が中心。
令和7年(2025年)
呉楽器店の後継者が決定。令和8年4月から新事業主が経営を開始。
令和8年〜(今後)
東広島市・江田島市など周辺7自治体との広域展開へ。連携中枢都市圏の国庫補助も活用予定。

視察を終えて——津市への示唆

感想として、呉市の取組は「商店街再生を起点に、事業承継×創業支援×UIJターン促進を一体化させた」設計の巧みさが印象的だった。固定資産税・新規創業の場・地域経済循環という3つの軸で商店街の価値を可視化した説明は、議会質問の切り口として非常に参考になる。

一方で、令和5年開始から令和7年に成功1件というスピード感は慎重に評価する必要がある。「成功することが大事」という方針は理解できるが、掲載案件の発掘が進まない課題は本質的な問題を示している。商工会議所経由のアンケートが0件という事実は、既存の団体経路の限界を端的に示している。

津市においても、れんがどおりに相当する中心商店街の空洞化は進んでいる。まず「掲載案件の発掘」をどのルートで行うか——そのために必要な「まちのプレーヤー」を誰が担うかが、導入の成否を分けると感じた。また、日本政策金融公庫もオープンネーム型の事業承継事業を行っており、同様の取組を比較検討する価値がある。

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