口説(くどき)

行きつけの喫茶店「ツァラトゥストラはかく語りき」の店主、山本君から進められて読んでいる「忘れられた日本人」 http://www.amazon.co.jp/dp/400331641X まだ最初の34ページしか読んでいないがなかなか面白い。 宮本常一という民俗学者が各地を歩いてまわりそこの風情を記したもののようなのだが、対馬の人達の口説(くどき)と呼ばれる民謡を披露してもらう場面がある。 何百年も伝承されてきたもののようだが、後段出てくる若者は芸がなく歌えない。 一方で息が切れてもう歌えないと1曲でやめた一番の歌い手は、その昔は祭りで集まってきた美しい女とは片っ端から契りを交わしたという色男。 皆がうたい踊る祭りの情景がなんとなく伝わってくる。 人との出会いはそうした「場」で作られるのだという話を、友人としていたばかり。 家内の国にも歌や踊りは違うが同じように若者が集まり出会う「場」がある。 完全武装して「今から出会いにいきます!」と身構えていく婚活イベントとは少し雰囲気が異なる。 口説(くどき)はもちろん民謡の類いなのだが、章末に老女が歌う口説(くどき)には性描写が出てくるようでその場に居合わせた若者が恥ずかしがっている様子が記されている。 言葉通り「口説き」だったんだろうなと思うが残念ながら実際の歌を聴くことはかなわない。 歌を掛け合って歌いあい歌合戦をするのだという。歌を歌いながら意中の人を射止める。なんと風情のある事だろう。 集まっては来たものの地域の盆踊りがなくなってしまい口説(くどき)を知らない若者は芸がなく歌合戦に混じることも出来ずしゅんとしていたのだとか。 その晩は「天子様のいる東京の人」が歌を聴きたいというからという事で急に設けられた場という事らしいのだが、それでも夜中の3時まで歌っていたのだという。 そういう私も何も継承された歌もなく口説も知らない芸のない男だ。誠に残念でならない。